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陳述書   石田 絹子

 

住友化学男女賃金差別裁判の元原告、石田絹子です。

私は1963年、高卒で住友化学に入社、42年間プラスチックの受注出荷業務をし、入社して配属された部署のまま2004年に定年退職しました。入社時の採用は、①大卒、②高卒男子、③高卒女子、④中卒、の学歴男女別の4つの区分があり、1970年に専門職と一般職のコース別人事制度になりました。この制度では、①事務技術職掌―標準化しやすい仕事(いわゆる一般職)、②専門事務技術職掌―複雑でむつかしい仕事(いわゆる総合職)、に分類され、従前の高卒女子は事務技術職掌、高卒男子は専門事務技術職掌に移行されました。 同時に系列転換制度が設けられ、学科試験(国語、数学、英語、社会)にパスすれば事務技術職掌から専門事務技術職掌に転換することができました。しかし、上司は男子には時間外に学科を教えるなど援助し、部下を合格させる責任がありましたが、女子は殆んど試験があることさえ知らされていませんでした。 1984年に変更された人事制度で学科試験は上司による推薦に切り替えられ、女子にとってコース転換はますます困難になり、1996年には論文(事前にテーマはあきらかにされない)もしくは国家試験(会計士、薬剤師、中小企業診断士、行政書士、司法書士など)や英検一級取得が条件となりました。

 

コース転換に高いハードルがあったものの、機会は男女平等であったということで差別は認められませんでした。しかし運用では大きな差別があり、結果の差別は歴然としてありました。

 

制度が変わっても一貫していたのは、男子は幹部候補生、女子は単純反復作業でした。私と同期高卒入社の男子は全国採用で転勤もあり、20年目には全員が管理職になりました。女子は事業所採用で、定年まで同じ部署にいて平社員のまま、賃金は半分でした。

 

勤続20年以上経った頃、上司に「もっとやりがいのある仕事をさせて欲しい」と申し出ると、「あなたは会社の礎になってほしい」と言われ、もう一人の原告は「銃後の守りに徹してほしい」とまで言われました。1994年に国連女性差別撤廃委員会へ訴え、「男女平等は世界の流れ」と実感して1995年に裁判に踏み切りました。

 

2001年に地裁判決があり、「男女で著しい格差があるが、当時の女子は勤続が短いなどから『公序良俗』に反するとは言えない」として敗訴、同時に提訴した住友電工裁判では「憲法14条の趣旨には反するが、『公序良俗』には反しない」と判決され、一緒にILOなど国際機関にも訴えました。その結果、高裁から住友電工に対し「過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは許されない」とする和解勧告があり、原告は管理職に昇格しました。6ヵ月後に住友化学でも同旨の和解提案があり、高裁は定年退職を目前にした私を「たとえ1ヵ月間でも管理職に」と会社に迫りましたが、会社は「言われて行うものではない」として受け入れませんでした。しかし、この住友電工和解の基準に実績を積み重ねることが今もっとも重要だと判断して、一人500万円の和解金で和解しました。

 

東和工業は1999年にコース別を提案、しかも「総合職=職種転換及び転勤ができる職種(従前の男子)」、「一般職=基本的には転勤できず、限定された職種(従前の女子)」としました。1999年4月に均等法の第一回目の改定が施行されているのもかかわらずです。まさに時代錯誤の極みです。2002年の運用時には設計職である本間さんを女性であるという枠組みだけで一般職に振り分けた会社の判断は、働く女性の人権侵害です。1995年頃から男女差別裁判が全国で15件争われ、その殆んどが勝訴、もしくは勝利和解し、男女平等は日本でも本流となりつつありました。東和工業のやりかたは時代に逆行するものです。 金沢地裁において、働く女性の人権を守り、男女平等の流れに沿う判断をお願い致します。 以上

陳述書   京ガス男女賃金差別裁判元原告 屋嘉比ふみ子

 

Ⅰ、自己紹介 私は2007 年2月に会社が倒産したため事業所都合で退職し、2008年に創設したペイ・エクイティ・コンサルティング・オフィス(PECO)代表として、ILO100号条約に則ったジェンダー中立の職務評価を普及するために活動しています。 私の過去の仕事や活動について簡単に紹介します。

 

私は大学卒業後1981年5月、大阪ガス関連会社のガス配管工事会社である(株)京ガス(京都府久世郡)の総務部に事務職員として入社しました。入社3年後の84年2月、合理化のため女性社員3名、男性嘱託社員3名に指名解雇が通告され、私はその中の一人でした。明らかな性差別と嘱託社員差別であり、私はひとりの支援者もない中、自分の力だけで全員の解雇を撤回させました。しかし、会社と労働組合が結託して行った合理化を覆した謀反者として、その後2年間は仕事を干し上げられ、様々ないやがらせ攻撃を受け続け、86年6月、建設部に一人だけ強制配転されました。

 

私は仕事を干された2年間、「奪われた仕事は必ず取り戻す」という意思を持ち続けました。 配転された建設部は大型重機を使用しながら土木工事や配管工事に従事する、男性のみかつ男性の筋力だけが勝負のような非常にマッチョな部署でした。私は管理職による指導も教育もまったくない中、自力で検収・積算という職務を体得しました。ガス工事の竣工図面や施工報告書の作成、入札工事の積算(年間約16億円)など、私が担当するまでは男性管理職(課長・部長)が従事していた職務です。専門的な知識の習得が必要で、スキルを磨くための努力は想像以上のものがありました。

 

検収業務とは、ガス工事完了後に個別ガス工事に掛かった労務費、材料費を計算し、竣工図面を作成することです。竣工図面作成は、強制配転された86年当初はすべて手書きでしたが、95年くらいからパソコンでの図面作成用の特殊なソフトに変わりました。手書きで詳細な竣工図面を書くためにはわずかの漏れも許されず、想像以上の注意力と集中力が必要でした。さらにソフトを使いこなせるためには、何度も大阪ガスでの研修を受け、実務を習得する必要がありました。また、施工報告書作成には土木関連の材料費や労務費の非常に煩雑な計算をしなければなりません。入札工事の積算は、仕様書と巨大な設計図面をにらみながらどのような工事であるのかを十分に把握し、積算しました。入札期日を外すことはできず、確実に期限までに積算書を作成しました。多数の入札工事の期限が重複することもあり、残業や休日出勤もこなさざるを得ませんでした。15社ほどの工事会社が競争入札することから、会社が欲しいと思う工事を落札させるための創意工夫が求められました。京ガス建設部では、私以外に同じ仕事をできる人が一人もいなかったため、相談できる人や仕事を分担してくれる人がいないまま、全責任を負っていました。

 

他の部署では、私と同等の職務を男性の取締役部長や課長が担当していました。 私は建設部に配転された後、監督職の資格取得を会社に希望し続けましたが、「女性は監督にしない。試験も受けさせない」という会社の方針は最後まで変わりませんでした。

 

私は入社当初から「男女の賃金差別是正」を職員組合に提起してきましたが、男性中心の組合のため総意にならず、建設部に配転直後、当時の社長に直談判しました。社長は、「賃金格差は監督職と事務職という職種の違いによる」と主張し、男性事務職については「年功がある」と理由付けました。この主張は4年毎に親会社(株式会社ダイダン)から出向してきた社長や役員に引き継がれ、雇われ役員たちは異口同音に弁明することで、差別の是正を避け続けました。

 

私は職種の違いだけをもって賃金格差に合理性があるとは断じて容認できませんでした。なぜならば、私は建設部に配転直後からガス工事現場に10年以上通い、監督職の職務の大半を熟知していました。自分が担当する検収・積算業務は、建設部の要となる重責の職務であり、監督職及び管理職と同等以上の仕事をこなしているという自負がありました。

 

私は1987年、おんな労働組合(関西)という日本で初めての女性だけのユニオン結成に参加し、職員組合とおんな労働組合とに二重加盟の中で活動していました。1994年より、男女賃金差別の是正を求めて、おんな労働組合で団体交渉を開始し、1年ほど団交を繰り返しましたが、不誠実団交であったため、1995年5月大阪府の労働委員会に不当労働行為救済申立てをしました。

 

1997年12月まで労働委員会で争いましたが、13回続けた審問終了後も会社は歩み寄りを見せませんでした。組合は申立てを取り下げ、私は1998年4月、京都地裁に提訴しました。 2001年9月20日、原告勝利の判決が出ました。(詳細はⅢ)

 

Ⅱ、本間さんの陳述書を読んでの感想・意見(東和工業の差別性) 本間さんの陳述書はとても説得力がありました。

 

本間さんの仕事について 本間さんが資格取得のために懸命に設計の基礎を自力で勉強し、2級建築士の資格を取得されたことは本間さん自身にとっても、会社にとっても有効なことだったと思います。本間さんの職務内容は陳述書に詳細に書かれていますが、設計図の作成、各種プラントの積算業務、完成図書の作成など、設計に関する専門的な知識の習得による高度のスキルと経験がなければできない仕事だと考えます。本間さんの職務は専門職であり、12年以上も設計職として働いてきた職務の実態から鑑みても、男性の職務と同等の価値があると考えます。会社は本間さんの自己研鑽と努力および専門職としての技量を活用して働かせ、その貢献の上に利益を上げてきた訳です。その事実を率直に認めるべきだと思います。 本間さんの職務内容は、上記の私が京ガスで担当してきた職務と同等な部分が多数あります。設計部という専門性を有する部門で男性と同じ仕事をしてきたことも私と重なります。男性と同等またはそれ以上の仕事をこなしても、女性であるというだけで職務の価値を貶められ、賃金において差別的処遇に置かれたという事実はまったく同じだと思います。

 

コース別雇用管理について 東和工業が2002年に導入したコース別雇用制度は、「雇用管理区分が異なれば格差は合理的」という男女雇用機会均等法を利用したものだと思いますが、総合職と一般職を「男性と女性」に分けることは、1985年制定時から「ザル法」と批判されてきた男女雇用機会均等法にすら違反します。会社の主張によりますと、「総合職とは、総合的視野に基づいて判断できる能力を有し、管理者であれば、管理的能力を有する者であり、職種転換・出張・転勤の可能な者を指す」、「一般職とは、専門的分野において業務遂行能力を有し、原則として採用時の職種に限定され、転勤はない」と区分されています。 しかし、「総合的視野に基づいて判断できる能力」および「管理的能力」とは何を意味し、どのような基準で、誰がそれを判断するというのでしょうか?明らかに違法なコース別制度を強行した会社の役員ならびに管理者の誰かが判断するのであれば納得できません。「仕事の価値」ではなく、いわゆる「人」の考課であり、合理的根拠のない基準であると考えます。会社の主張通りの「男女別コース別制度」であれば、男であるだけでそのような能力が備わっているということになります。 黒崎副社長の「男は総合職、女は一般職という会社の決定が気に入らなければ、他の会社を探してもらっていい」という、本間さんだけに向けられた恫喝ともいえる発言は捨て置けません。「総合職は転勤の可能性がある」との発言もありますが、本間さんが所属していた設計部では転勤の実態はなく、男性全員が転勤する訳でもないのに、「可能性」だけをほのめかして男女別に区分することは違法です。基本的に性差別的な会社の風潮を前提とした発言ならびに決定であり、許しがたいことです。 明確な説明責任も果たさず導入された「男女別コース別制度」の結果による賃金格差は明白な性差別であり、職務の内容を重視して速やかに処遇を改善すべきだったのです。本間さんは自ら積極的に建築士の資格を取得し、会社にこの上なく貢献してきたと思います。 さらに、本間さんが提訴した後は、コース別制度の違法性が明白になったために、本間さんの職務の価値をことさらに貶めるような主張をしてきたことは、差別の上塗りとして厳重に抗議したいと思います。

 

男女雇用機会均等法について 2012年10月より、労働政策審議会雇用均等分科会で2006年に改定された均等法見直しのための議論がされてきました。労働者側委員の連合は、第1条(法の目的)に記された「男女の均等な機会及び待遇の確保には、賃金の男女均等取扱いが含まれることを明記するとともに、各条文の性差別禁止事項は賃金格差のためにも運用されるべきことを明確にすることが重要であること。第6条(性別を理由とする差別の禁止)について、事業主が労働者の性別を理由として差別的な取扱いをしてはならない事項に「賃金の決定」を加えること、などを要求してきました。 2013年9月27日に労働政策審議会雇用均等分科会で出された「今後の男女雇用機会均等対策について(報告)」では、3.コース別雇用管理「事業主が男女雇用機会均等法に抵触しない等適切な雇用管理を行うことを確保するために『コース等で区分した雇用管理についての留意事項』(局長通達)をより明確な記述としつつ指針に規定することが適当である。」とされています。 私たち運動団体は均等分科会の審議を欠かさず傍聴してきましたが、報告が出た後「男女雇用機会均等法を男女平等法に!」という<緊急アピール>を呼びかけました。アピールでは、雇用管理区分について、「指針から雇用管理区分を廃止し、男女間の待遇等の格差を性別以外の合理的な要素の有無によって判断する枠組みとすること」を明記しています。この緊急アピールには、全国から130の諸団体が賛同し、安倍総理大臣および各大臣、各政党、労政審議会雇用均等分科会委員等に送付しました。

 

Ⅲ、自分の裁判について

1、京ガス男女賃金差別裁判 2001年9月20日に出された一審判決は、「原告と男性監督職の各職務を、知識・技能、責任、精神的な負担と疲労度を比較項目として検討すれば、その各職務の価値に差はない。労基法四条違反で違法、女性差別である」と明言し、「職務の価値」という概念を採用して原告を勝たせました。判決は「同一価値労働同一賃金原則の観点から」と題する、森ます美教授(昭和女子大学)執筆の『鑑定意見書』を証拠の筆頭に挙げ、日本で初めて同一価値労働同一賃金原則を実質的に認めた画期的な内容でした。 控訴審で原告側は、賃金台帳が提出された1990年4月から2005年6月までの基本給だけに限定した差額1,583万円と慰謝料500万円、弁護士費用180万円の総額2,263万円を求めていました。2005年12月8日、裁判所の勧告により、一審判決に基づく勝利的和解で解決しました。

 

2、裁判の争点 <一審> 事務職(ガス工事の検収・積算)の原告(屋嘉比)は、提訴当初から職種が異なる監督職男性を比較対象にして「職務の価値」に焦点を当ててきました。被告は、「職種の違いによる賃金格差は男女差別ではない」と主張し続けましたが、文書提出命令により賃金台帳が開示され、事務職男性の賃金が監督職と同等或いはそれ以上ということが判明しました。そのため被告は、原告入社以前から『事務限定・事務非限定』のコース別管理制度が存在したと、突然主張を変えたのです。しかし、被告の証人(取締役常務)尋問では、コース別制度は未確立のまま年功制度による雇用管理が続いていたことが明らかになりました。また「会社経営の命綱ともいえる入札工事総額の判断を、女性の一事務職員がやるはずがない」との主張を繰り返しましたが、一審では被告証人(取締役建設部長)の証拠調べにおいて、原告の主張を覆すことができないばかりか、むしろ原告の職務価値の高さを浮き彫りにしました。 わずか2年間の間に6回の証拠調べを集中審理(1回約6時間)で行い、職務の価値に重点を置いて証人尋問を展開しました。最終的な書証としての『鑑定意見書』では、国際基準による職務評価の結果、比較対象の男性監督職の職務価値100に対して、私の職務価値は107でした。賃金格差は100対70でしたので、同一価値労働同一賃金原則に反すると主張しました。

 

<控訴審> 2004年2月の原告証人尋問で、被告が拘泥した「入札積算の判断は誰がやってきたのか」という点にスポットをあて、原告があらゆる判断をしてきたことを含め、職務の価値において監督職及び管理職と遜色ないことを立証しました。また控訴審で新たに提出された賃金台帳の分析結果をもって、被告会社には初任給から男女差別が存在し、職種に関わりなく男女差別をベースとした年功序列型賃金を運用してきたことも立証しました。被告は自ら控訴したにも関わらず、原告の主張を覆すに足る証人、書証、陳述書など一切を提出できませんでした。 90年代後半から近年にかけて非正規雇用の拡大が労働問題として浮上してきました。男女のみ ならず正規と非正規という雇用形態の違いによる賃金格差を是正するためには、世界各国で活用されている国際基準の職務評価が非常に有効なツールです。国際基準の職務評価を発信していくという意味でも、ペイ・エクイティ(同一価値労働同一賃金)を正面から提起した京ガス事件はとても重要な闘いでした。京ガスにはもちろんコース別制度は存在しませんが、仮に運用されている企業であっても、同一価値労働同一賃金原則で闘えるという実績を残したのです。

 

Ⅳ、京ガス事件と東和工業事件の共通性 企業は意図的にコース別制度を導入し、格差の根拠にしようとします。京ガスは裁判で賃金台帳が出た途端に、「原告の入社以前から『事務限定・事務非限定』のコース別制度が存在した」と主張を変えました。私が入社したのは1981年ですので、それ以前に社内でのコース別制度などあり得ない話でした。 京ガスの就業規則では、監督職も事務職もすべて「職員」であり、工事に携わる工事士が「工員」と位置付けられていました。男性が95%という建設業の男性職場ですので、会社も従業員も性別役割分業意識が高く、女性の人権や労働権には考えが及ばず、いわゆる世帯主賃金を運用していました。私はシングルマザーで二人の子どもを育てましたが、世帯主賃金ではなく、「男性に扶養される女」という位置づけの賃金でした。しかし、仕事は男並み、賃金は女並みという性差別は裁判で明らかになりました。 証拠調べでコース別制度が存在しないことは明白になりましたが、このように格差の根拠づけとしてコース別制度が利用されること自体が極めて不当であると考えます。 ましてや東和工業のように、初めから「男女で区分」という性差別のための制度は認められません。東和工業も京ガスと同じように、前近代的な家父長制と性別役割分業意識が根強い社風の下に雇用管理が行われてきたのだと思います。 本間さんが努力して、直属の上司や同僚に先駆け2級建築士の資格を取得し、十分に職務に反映させてきたにもかかわらず、何の評価もせず、コース別制度を導入する際に「女性」という理由で本間さんだけを一般職に振り分けたことは性差別以外の何物でもありません。 さらにコース別制度導入後の、それ以前は本間さんが従事してきた出張打合せや現場測量に出向く機会を与えなかったこと等も、女性を男性と同等の社会人として評価しない不当な処遇であると考えます。これらの処遇は、直接本間さんの職務に影響する重大な要件だと考えます。 前述しましたが、京ガスでは、女性が監督職の資格取得を希望しても「女だから」という理由で受験資格も与えられませんでした。私が担当した職務は、監督職や管理職でなければできない仕事でした。そのため私は、工事現場に10年以上通い、監督職の仕事を実際に見てマスターしました。さらに私には決して与えられなかった監督職の資格試験のための要綱や試験問題を監督職から借りて自宅に持ち帰り、すべて読みこなし、自力で習得しました。フォローアップの時点でも同じように監督職の協力を得ました。 本間さんは自らの自己研鑽の上で資格取得をし、会社に貢献しながら働き続けてきました。東和工業の雇用管理のあり方は、本間さんの労働を利用しただけで、本間さんの人格を否定するものです。なぜ女性だけが男性以上に努力を強いられ、懸命に尽力してもそれを評価されることがないのでしょうか?男性は仕事の価値を問われることはありません。仕事内容に関わらず、「男」でありさえすれば、「世帯主賃金」が得られ、そして座る椅子がありさえすれば自動的に昇進・昇格していきます。「差別だ」と声を挙げた女性だけが「仕事の価値」を問われます。 しかし、女性たちの大半は男性と同等、同価値の仕事をこなしているのです。女性の仕事を公正に評価し、仕事に対して性別を問わず均等な処遇をすることが正しい企業社会のあり方だと考えます。

 

Ⅴ、おわりに

80年代から全国各地で男女賃金差別裁判が闘われ、その大半は勝利判決を勝ち取り、または勝利的和解で解決しました。各裁判の原告たちは20年~40年にわたって差別を受け続けてきました。そして、本間さんも指摘しているように、賃金差別は年金にまでひびき、その屈辱は生涯死ぬまで続くのです。本間さんや私のように自ら研鑽を積み、男性と遜色無い仕事をやりこなしても、女性であることを理由に企業は決してその仕事の価値を認めようとしません。これは国際条約はじめ憲法や労働基準法に反する性差別以外の何物でもありません。

 

裁判所はコースの違い、職種の限定・非限定、労働条件・労働実態の差などを理由にした格差は、それらの事情を理由にした格差であって、女性であることを理由にした格差には当たらないという考え方をするようですが、ILO100号条約や女性差別撤廃条約などの国際条約を批准している日本においては「性に中立な職務評価制度」を早急に確立すべきだと考えます。

 

日本政府は、ILOやCEDAW(国連女性差別撤廃委員会)から、法制度の整備や女性労働政策の抜本的改革を何度も勧告されています。国際機関からの勧告に注視していただきたいと思います。

 

賃金差別は構造的な性差別のひとつの現象ではありますが、性別役割分業を基盤とした賃金差別は、女性たちの生涯を通しての経済的自立を疎外し、女性たちの人格権を侵し、人間としての尊厳を奪う最たるものだと考えます。

 

裁判所におかれましては、証拠調べを十分に果たし、東和工業での事実を検証していただき、本間さんの経済的、精神的損害の回復と、今後の社会変革に寄与できる判断をお願いいたします。

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