陳述書 柚 木 康 子
1.はじめに
私は1966年12月にシェル石油(当時)に入社し、以来昭和シェル石油株式会社に45年あまり働き、2012年1月に再雇用を終え退職しました。私は仕事の傍ら退職までの40年近くを組合役員として、働きやすい職場の実現、組合間差別の是正、男女差別の是正を求めて活動し、2つの男女差別裁判にかかわりました。ひとつは1994年3月8日に提訴した昭和シェル男女差別野崎事件です。もうひとつは私自身が原告の一人となり2004年12月24日に提訴した昭和シェル男女差別現役事件です。現在は組合役員を続けながら、均等待遇アクション21という均等待遇の実現を求めて活動するNGOの事務局も行っています。
2.昭和シェル石油の男女差別事件
私が入社したシェル石油㈱は1985年に同じロイヤルダッチシェルの資本が入った昭和石油㈱と合併しました。合併後会社は日本的経営と称し、手当の拡大や賃上げ配分、一時金査定に資格を持ちこむ等で男女の格差を拡大しました。女性をほとんど昇格させなかったからです。1990年の秋、別組合員であった野崎さんは自らにかけられた性差別を是正したいと行政機関や地域の組合に相談され、地域の組合から私に紹介があり話を聞きました。野崎さんの思いは、私が委員長をしていた全石油昭和シェル労働組合にとっても共通のものでした。野崎裁判は退職後の1994年3月提訴、以来2009年1月の最高裁決定まで15年に亘り、組合は職場の男女差別是正につながるとこの裁判を全面的に支援してきました。
昭和シェルの職場では、野崎裁判で出された同期の賃金・資格データや労働委員会での組合差別事件の審問の進行もあり、徐々に女性の昇格が出てきました。2001年1月には1992年当時の「職能資格滞留年数」表の存在が明らかとなり(裁判所はこれが昇格の基準であることを認定しました)、高卒・短大卒の女性のSランク(企画判定職)への昇格が増え、ガラスの天井であった「S1」への昇格もでてきたのです。 昭和シェル石油の組合員対象の資格制度を簡単に説明します。資格はG4→G3→G2→G1→S3B→S3A→S2→S1→M4Bと昇格していきます。高卒の男性は入社10年でほぼ例外なくG1となりました。2001年に新人事制度が導入され、G資格は「J」に、S資格は「F」と読み替えられました。またS3のA・Bが統合されF3に、S1とM4Bも統合されF1となりました。 2003年1月東京地裁から野崎事件全面勝利決が出され、G2で退職した野崎さんの資格は合併時S2が相当とされました。この判決を受けて2004年12月に私を含む現役12名が女性差別裁判を提訴しました。 現役裁判でも全社員の資格・賃金のデータが出され、高卒・短大卒で初めてのF1昇格が2003年1月に1人、2004年にも1人、そして12名の原告による裁判提訴後の2005年に一挙に5人がF1となっていたのです。裁判提訴を受けたアリバイ作りであることは事実ですが、多くの高卒・短大卒女性に希望を与えたことは間違いありません。 2006年に私は58歳でF1となりました。同学歴男性とくらべれば、15年以上遅い昇格ですし、同じF1でも賃金は過去の差別の結果で10万円以上低いままでした。私は男性であれば、高卒28歳でなる資格G1に1996年に20年ぶり48歳で昇格し、それ以降10年間で3ランクも昇格したのです。まさに裁判を闘った成果です。 私は1988年から1998年まで昭和シェル石油㈱東京支店で給油所の補修・改修・管理業務を行っていました。1995年当時私はG2資格でしたが、主に首都圏4都県の給油所塗装工事、新仕様(RVI)による給油所改修工事を担当していました。年間予算は塗装業務が3億円、新仕様改修業務が14億円の予算規模でした。塗装業務は単独で担当し、新仕様改修業務は同じくGランクの高卒女性に一部分担してもらいながら実施しました。仕事を進める上で必要な報告は上司に行いましたが、日々指示を受けたことはありません。私と同様の仕事は他支店においてはS2やS1資格の男性が行っていました。 1998年から7年間は本社において昭和シェル石油の直営給油所(運営は委託)に関する請求書業務と在庫管理業務を担当しました。当初は私と同じG1の女性と2人で担当し、その後は給油所数の大幅な増加もあり、2002年秋にはF1資格の男性1名を加えた4人体制となりました。各人の資格は、私より1学年下の50代男性がF1、私がF3、残りの40代女性2人がJ1という構成で私は請求書チームのリーダーでした。私はリーダーとして請求書が毎月2回期日に遅れることなく発行できるよう気をくばりましたが、4人が全国のエリアを分担し、協力しながら業務を行い、誰かが補助ということはありませんでした。 2005年7月からは1998年以前の10年間携わっていた給油所の補修・改修・管理業務を本社において行い、2008年1月に定年、再雇用では給油所の資産管理の仕事をし、資産のデータベース化に取り組みました。この間昇格したからといって仕事や責任が変化するわけではなく、従前から主体的かつ効率的に責任をもって仕事を進めていました。変化は昇格によって賃金が上がったことぐらいです。 現役裁判は2009年6月に東京地裁判決となり(会社の不法行為を認定)、控訴審の途中で会社と組合の全面和解の結果、控訴取下げ、地裁判決確定となりました。今会社とは高卒・短大卒女性の資格是正にむけたポジティブアクションのための事務折衝を行っています。
3.本間さんの陳述書を読んで
本間さんの裁判については、均等待遇アクション21事務局会議で新聞報道があったことを知りました。2012年の春に東京で事務局メンバーと共に本間さんのお話を伺う機会がありました。お話を聞いて典型的な男女差別だと思いました。その後は男女賃金差別裁判を闘う原告・弁護団交流の場にも参加頂き、また私も直接金沢地裁の法廷にも傍聴参加してきました。 今回本間さんの陳述書を読み、改めて東和工業のコース別制度は「女=一般職」という性役割分業意識に基づいた違法な性差別であり、これが是正されないことはあり得ないと確信しました。 陳述書からは、本間さんが仕事に誇りを持ち、学習し知識を深め、設計の職務を行ってきたこと、会社も技術手当の支給という形で設計職であることを認めていたこと、にもかかわらず、2002年にもなって、後から入社した設計の経験もない男性が総合職になることからも明らかなように男女別コース制度を導入し、女性であるがゆえに本間さんを一般職とし、技術手当も実質ゼロとなる不利益を与えたことが明らかです。 また本間さんは何度も総合職として認めるように要請を繰り返しています。その回答は「男は総合職、女は一般職という会社の決定を気に入らなかったら、どこか他の会社を探してもらっても結構です。これは本音です」(黒崎副社長発言)というのですからまさに会社は確信犯と言えます。 本間さんが記載している「賃金ベースの見直しを求め一生懸命仕事に励んできたのに、是正の可能性が100%否定されました。悔しいやら、腹が立つやら、納得いかないという思いでいっぱいでした。また、私のこれまでの設計業務が否定され、ひいては人格が否定された様な、とてもみじめな気持に陥りました。」、「設計職に就き12年余り、2級建築士の資格を取得し、設計職に誇りを感じながら、一生懸命仕事を行ってきただけに仕事・人格の全面否定ともいえるこの言葉には、頑張った分、尚更、悔しさとみじめさは深く大きいものでした。」の気持ちは本当によくわかります。 私は組合委員長として団体交渉に臨みましたが、他の役員はみな男性で私より少し若いメンバーでした。そこで「どうして男性はS資格なのに、私はG2という資格なのか」と何度も問うたことがあります。取締役は「能力を公平に評価した結果でございます」とシャアシャアと言いました。まさに柚木は能力がないからというだけでなく、大半がG資格の昭和シェルで働く女性は「能力がない」と言うに等しいのです。ふざけるな!と言う思いでその後も差別是正を求めて闘い続けてきました。 本間さんは、女性蔑視で本間さんの努力や仕事内容を認めようとしない、劣悪な職場環境の中で定年まで、総合職の男性部員とも協力しあっていくつもの仕事を責任をもって行ってきました。この本間さんの努力は素晴らしいだけでなく、会社に多大な貢献をしたことは間違いないと思います。
4.まとめ
日本の性差別はILOや国連女性差別撤廃委員会から、今年は社会権規約委員会からもその是正が求められています。性別や学歴にかかわらず、誰もが公平・公正に評価される職場は働きがいのある職場になります。多くの女性が職場での差別やハラスメントに遭いながら、なかなか裁判を起こして是正を求める決断はできません。本間さんは定年を前に意を決して裁判に立ちあがったと思います。
裁判所におかれては本間さんの後ろにある多くの女性の思いを受けとめ、本間さんの仕事の価値を正当に評価し、世界に誇れる判決を下されるよう心からお願い致します。 以上
陳述書 細井 れい子
私は現在、東京地方裁判所で フジスター株式会社(アパレル製造卸業)における男女差別賃金の損害賠償を訴えております。
同じ賃金差別裁判を闘っている立場から見て、 東和工業株式会社における原告の取り扱いは、女性であることを理由とした賃金差別であることは明らかです。男性は総合職で、女性は一般職というコース別雇用管理は露骨な男女別雇用制です。
原告は平成2年から退職までの長い期間、男性設計士と同様に設計を担当し、その職務に意欲的に取り組み2級建築士の資格も取得しています。後輩の男性部員の指導もしています。原告の設計の職務は高度の知識を要し専門性も高いものです。原告はその職務を全うしておりました。 職務が同じであるにもかかわらず、男性設計部員が全員総合職で女性である原告のみ一般職というのは男女差別以外なにものでもありません。
男性設計士と変わらない仕事をしている以上、他の男性設計士が総合職であるなら原告も総合職であることは当然のことで、原告がその差別的取り扱いの是正要求を再三しているにもかかわらず会社は是正義務を怠ってきました。
東和工業の原告の上司には「女性が外で働くことは好きでない」とか「女性が設計という技術職につくのは気に入らない」などの発言がありました。これは女性に対する偏見です。東和工業はこのような偏見にもとづき男性は総合職、女性は一般職と分けてきたのです。
私の裁判では、営業(男性)とアパレルデザイナ-(女性)との異職種間での差別性を明らかにするため職務鑑定を行って、同一価値労働であるなら同一賃金であるべきとの主張をしております。
私も原告と同じように、自分の仕事に誇りをもち努力をして、会社の為に頑張ってきました。それなのに、女性であることを理由に屈辱的な取り扱いを受けてきたことは報われない思いです。
東和工業では同じ職種で、同じ職務ですから私の場合と比べてもその差別性は明らかであり、被告の原告に対するこれまでの対応は許せません。
日本は先進国でありながら、女性の地位においては社会の意識はいまだ戦前とかわらないものがあります。女性の労働が家計補助的と位置づけられ「女性は低賃金でいい」という今の日本社会での考え方は女性が一人の人間として生きる権利を奪っています。女性の社会進出も自立さえも妨げています。
裁判所におかれましては、一日も早い原告の救済をお願いします。 以上