陳述書 本間 節子
私は2009年10月20日に最高裁判所の上告棄却で、2008年1月31日の東京高等裁判所の判決が確定した、兼松男女差別賃金事件の原告の一人です。
兼松株式会社の賃金は1986年均等法が施行される前の賃金体系は学歴に関係なく男女別年功序列賃金でした。それを兼松は今後均等法違反になるからと、コース別人事制度を導入しそれまでの男女別賃金を「職掌別」賃金と読み替え、男性は一般職、女性は事務職と一律に移行し、職務の分析もせず、希望も聞くことなく男女で振り分けました。このようなコース別賃金は労働基準法4条違反として、1995年9月26日東京地裁に提訴しました。 確定した東京高等裁判所の判決は、均等法制定を前に制度化された職掌別賃金が過去の男女別賃金テーブルを継承しつつ女性の勤続年数が長期化しているのに、男女間の格差を拡大・固定化させてきたこと、商社における成約業務と履行業務は同等の価値を有していることに着目して、コース別賃金は、労働基準法4条に違反する賃金差別であるとし、差別による賃金格差を月額10万円に相当するとして、差別による慰謝料・弁護士費用とともに賠償を命じたものです。
東和工業株式会社の本間啓子さんの陳述書によると下記のように述べられています。 「1999年、会社から社員を総合職と一般職に分けるコース別雇用制の導入が社内通達で提案されました。この通達では、総合職と一般職(従前の男子、女子を読みかえる)「総合職=職種転換及び転勤ができる職種をいう(従前の男子)」、「一般職=基本的には転勤ができず、限定された職種をいう(従前の女子)」と定義されていました(甲6)。その後の2002年5月に総合職の年齢給等、同年6月に一般職の年齢給等が公表され、「総合職とは、総合的視野に基づいて判断できる能力を有し、管理者であれば、管理者能力を有する者であり、職種転換・出張・転勤の可能な者を指す。……営業職」、「一般職とは、専門的分野において業務遂行能力を有し、原則として採用時の職種に限定され、転勤はない。……現在の、女子採用条件です。」とそれぞれ定義されました(甲7、8)。」
本間啓子さんが陳述書で述べている東和工業(株)のコース別賃金は、兼松(株)の導入したコース別賃金と同じであり、職務の分析も本人の希望も聞くことなく男女で振り分けたもので、兼松男女差別賃金事件と同様、労働基準法4条違反です。まして、本間さんの場合は、設計職で業務も同じです。
東和工業(株)では転勤の有無を コース別の理由の一つにしていますが、兼松(株)の場合も会社は「業務や転勤の有無の違いによるもので、男女差別ではない。」と言っていました。 確定した東京高裁の判決では、転勤の実態や熟練形成に必要とされる条件などを勘案しても、必ずしも転勤によって形成される知識や熟練に賃金等待遇格差を生じさせるほどの差異は認めることはできない。として男女差別賃金であるとしました。
東和工業(株)の本間啓子さんの陳述書によれば、職場の実態として男性でも転勤していないとのことであり、転勤の有無でコースを分けていたわけではありませんし、転勤の有無でコースを分けること自体問題です。
裁判所におかれましては、本間啓子さんの訴えを真摯に受け止め、一日も早い男女差別賃金是正の判断をされることを心から望んでいます。 以上
住友電工男女賃金差別裁判元原告 西村かつみ
私は、1995年、国と会社を相手に、同期同学歴の男性との賃金格差是正を求め大阪地裁へ提訴した元原告です。会社側の提出した資料により明らかになった比較対象の男性とは、最高で月額24万円以上の賃金格差となっていました。賃金の差は会社での位置づけの差の結果です。後から入社した男性たちが次々に昇格していき、裁判を始めるころには、同期同学歴の男性が直属課長になり、一般職のままの女性が、同期同学歴の男性から仕事の指示を受けるという、非常に口惜しい思いをしてきました。会社、労組へ是正を求めましたが全く取り合われず、やむなく労働省大阪婦人少年室(当時)に、雇用機会均等法に基づき調停申請をしましたが、均等法の対象外として申請の取り下げをすすめられるに至り、最後の手段として国をも相手に提訴しました。
2000年に一審で、賃金格差の存在は認め、それは憲法の趣旨には反するが、公序良俗に反するとまではいえない、として原告全面敗訴となりました。直ちに大阪高裁へ控訴するとともに、これだけの差別があり、憲法の趣旨に反するとまで認定されながら、全面敗訴は許されない。更に、日本が締結している女性差別撤廃条約の批准のために雇用機会均等法ができたもので、このような差別が容認されるのは条約違反ではないか、との思いで、国連・女性差別撤廃委員会へ、日本の男女差別の実態としてレポートを提出し直接委員にも訴えました。委員会はその思いを受け止めて下さり、2003年、日本政府に対し ①間接差別を含む差別の定義を国内法に取り込む、②コース別雇用は男女差別のかくれみの、それを許す均等法の指針を改正、③一般職・パート・派遣など、低い賃金の職種に女性が多いのは間接差別 といった非常に具体的で厳しい差別是正の勧告が出されました。その国連よりの勧告を大阪高裁へ提出し、直後に行われた本人尋問で、裁判官に対し直接その内容も訴えました。それらを受け止められた裁判官より和解勧告が出され、2003年12月、私たちは勝利和解しました。
和解勧告の内容は、 「・・国際社会においては、国際連合を中心として、男女平等の実現に向けた取組みが着実に進められており、女性がその性により差別されることなく、その才能及び能力を自己の充足と社会全体のために発展させ、男性と女性が共に力を合わせて社会を発展させていける社会こそが真に求められている平等社会であることは、既に世界の共通認識となっているというべきである。・・・・過去の社会意識を前提とする差別の残滓を容認することは社会の進歩に背を向ける結果となることに留意されなければならない。 そして現在においては、直接的な差別のみならず、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められている。・・・」とされ、更に、差別是正は目に見えるものにする必要があるとして、原告の私たちは、提訴時の請求にはなかった管理職への昇格を果たしました。
東和工業事件は男女によるコース分けであり明らかに違法です。現在においてこのような明らかな男女差別が温存されるようなことは先進国として恥ずべきことです。是非とも女性差別の是正に向けて、逆戻りすることのない明確な判断をして頂きますよう要望いたします。