東和工業㈱男女賃金差別裁判の流れ
2016年11月 原告 本間啓子
2011年11月17日 東和工業株式会社を相手に金沢地方裁判所に提訴
2002年、コース別雇用制度導入時、私は女性であることを理由に一般職に振り分けられた。設計経験12年目で、後輩を含め男性は全員総合職です。その後10年近く是正を訴え続けたが拒否され、在職中に、総合職との賃金格差相当金、慰謝料の損害賠償と未払いの残業代を請求して総額約1920万円の支払いを求め、提訴。定年退職後、退職金の総合職との差額相当約280万円の損害賠償を追加請求した。
2015年3月26日 金沢地裁判決
①労働基準法4条に違反
裁判所は「東和工業のコース別雇用制における総合職と一般職の区別は名ばかりで実質的に男女別の賃金であり、労働基準法4条に違反する」と男女賃金差別を認定した。
そのうえで、不法行為における原告の損害は、「一般職として支払われていた賃金と総合職の賃金との差額である」と判示した。
②「職能給差額0円」
賃金差額は、基本給の内年齢給しか認めず、職能給は認めなかった。判決文「職能給は、被告による労働者の業務遂行能力に対する評価を前提にするものであるところ、原告が総合職として処遇されていれば原告が主張する等級評価を受けていたとの蓋然性までを認めるに足りないから、職能給についての損害を認めるには至らない」と判示した。
③消滅時効
会社側の消滅時効援用の主張を認めた結果、コース導入後の10年間の内、7年分の総合職との差額賃金が認定されなかった。
④退職金差額
総合職との差額計算対象期間は、在職期間(約25年)、少なくとも設計職に就いた時点から(約21年半)認容されるべきであると主張したが、コース制導入時点から(約10年)しか認定されなかった。
⑤職務内容について
判決では、被告がコース振り分けの理由として主張した「原告の技能レベルの低さ」を裁判提起後の後付けの理由であると排斥したにもかかわらず、裁判所は、業務内容の理解不足による事実誤認の上で、「初歩的な業務に就いていた」と判断した。
⑥損害賠償金額
請求額約2200万円に対し、年齢給差額(時効により3年分)、慰謝料、弁護士費用、残業未払い分及び付加金、退職金差額の合計として約441万円が損害賠償として認定された。
2015年4月7日 名古屋高裁金沢支部に控訴
控訴理由は、
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本件コース制を、労働基準法4条違反であると認定し、損害は総合職賃金によって補充されると判断したからには、職能給差額を認めないことは不合理である。
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消滅時効の適用については、時効の起算点についての認定の誤りや、権利の濫用を認めなった点において判断の誤りがある。
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退職金差額は、本件コース制導入時点からではなく、少なくとも設計職に就いた時点から認容されるべきである。
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職務内容について事実誤認がある。 というものです。
そして控訴審で、年金格差相当の損害賠償を追加請求した。(約90万円)
2015年10月21日 結審(控訴審2回目)、同年11月10日 和解協議開始
2016年 2月23日 和解決裂(5回の協議の末、被告が真摯な謝罪を拒否し決裂)
2016年4月27日 控訴審判決
名古屋高裁金沢支部は、原告の控訴理由をいずれも認めず、金沢地裁判決を維持した。また原告の控訴審での追加請求を棄却した。ただ退職金の算定方法について、誤りがあると見直し、損害賠償の認定額を7万円だけ増額した。
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「職能給差額」について、人事考課には裁量的判断が伴うことを理由に、「控訴人が一般職としての主任に昇格したからといって,総合職として処遇されていれば当然に主任に昇格していた高度の蓋然性があったということはできず,他にそのような蓋然性が存在したことを認めるに足りる証拠はない。」とし、さらに、「職能給の差額に相当する損害が生じていること自体を認めることができない」と判示した。
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「職務内容」について、原告は「判決文に業務内容の理解不足による事実誤認がある」と指摘したが、裁判所は事実誤認を認めないばかりか「基本設計を行う能力はなく・・」と、一審判決より、さらに事実とかけ離れた判断をした。
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「消滅時効援用」について、被告の権利の濫用ではないとし、また、消滅時効の起算点を賃金が支給される都度労働者が「損害および加害者」を知っていたとして、提訴の日から過去3年のうちに発生した賃金の差額分以外は、短期消滅時効にかかると判断した。
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「年金額格差」について、差別的取り扱いが無ければ支払を受けられたと認められる賃金 額は消滅時効にかかっていない3年間の年齢給の差額分が認められるのみであり、その差額分があることによって、本来支給を受けられるはずの年金の額がいくらになるのかは、証拠上明らかでなく、また差別がなかった場合の保険料の労働者負担分を考慮すべきであるが、裁判所がその金額を適切に認定することは証拠上困難であるとし、年金額格差についての損害を、一切認なかった。
判決について
控訴審判決は、職能給の差額を認めなかったが、これは、会社の主張については、裁量的判断として、容易にその立証が認められたのに対し、原告の主張に対しては、「控訴人が一般職としての主任に昇格したからといって,総合職として処遇されていれば当然に主任に昇格していた高度の蓋然性があったということはできず,他にそのような蓋然性が存在したことを認めるに足りる証拠はない。」として、容易にその立証を認めなかったことが原因である。
このような控訴審判決の構造のもとでは、会社が、男女別にコースを振り分けた差別の隠ぺいを図るために、職務能力が低いと虚偽の主張をしても容易に認められる結果となり、原告がどのように立証しても、格差が認められないことにつながる。
消滅時効の援用は、違法行為を行った会社の権利の濫用である。労働者は、異議を唱えれば解雇の恐れもあり、提訴するまで時間がかかることは必然です。裁判で差別が認められても時効が適用されれば、3年分を差し引いた残りの損害賠償が受けられない。「時効で流れた年月は、差別が無かったのか」と声を大に主張したい。
賃金格差は年金額格差に連動する。年金額格差は将来の女性の貧困につながる。
結局、本裁判は、裁判所が女性差別を認定した上でも原告の救済には至らず、逆に、本来差別が無ければ被告が支払うべき賃金・退職金の差額の一部しか会社に支払わせず、年金保険料の是正も行なわずに済むという会社の「差別のやり得」を許す結果となった。
このような事態は、差別をさらに拡大再生産させるもので、差別の強化につながる。女性差別撤廃の動きに逆行し、社会的にも大きな問題である。
上告の決意
「労基法4条違反」と性差別賃金であると判断したからには、職能給格差を含め賃金格差の全額を是正し、そのうえで、将来にわたる格差を是正する措置を講ずるべきである。法を適正に適用して、原判決を取り消し、差別によって被った不利益を回復させる判断を求めることを決意した。